【Fトーク#10】スポーツ発展の鍵を握る、地域通貨「YELLtum」の現在地と未来

今回のFトークゲストは、canow株式会社COOの大坂亮平さん。大坂さんはこれまでエンターテインメント業界に従事し、動画のスタートアップを経てデジタルマーケティング部の立ち上げを担当。その後、ブロックチェーン関連事業の立ち上げや海外カンファレンスのアレンジ、開発事業の戦略を推進。現在、地域通貨「YELLtum(エールタム)」を通じて理想のチームと地域のあり方を追求されています。株式会社F(エフ)の白川創一が、大坂さんと「YELLtum」の現在地と未来について語り合いました。

あの大事件が人生の転機に

白川:大坂さん、まずは音楽業界で仕事をされてきて、広告業界にも興味を持たれていったのですね。

大坂:そうなります。当時、ストリーミングはあまりなく、どうやってスポンサーやお客さんを取れるのかという感じで、「LINE LIVEとAbema TVをやるぞ」と意気込んで、「さしめし」という人気番組などのコンテンツ制作や動画広告を沢山作っていましたね。

白川:どういう立ち位置で動画広告を作っていたのですか?

大坂:私のポジションは、基本的にディレクターやプランナーでした。人生で1番きつかったのが、前ジャパネットたかた社長の高田明氏が最後に出演された30時間生放送をやった時でしたね(笑)。

白川:あははは(笑)。凄いですね!では、これまでどういう流れできたのですか?



大坂:動画作りがメインだったのですが、電通や博報堂等と仕事をするようになってから、広告に関わることを一通りやってきました。それから、仲のいい先輩の転職先のセールスプロモーションの会社に私も入社をし、新しくデジタルマーケティング部を作りました。そこでは、クライアントと直で販促広告をできていたので面白かったですね。



当時の会社のビル3階にオフィスを構えていたコインチェック株式会社さんで580億円もの流出事件があり、多くの報道陣が来ていたことがあります。

白川:あの事件は覚えています。

大坂:私がいた会社が年間70億円近く売り上げていたのですが、580億円ですからね(笑)。スタートアップのコインチェックさんが暗号資産取引所としてこれだけの金額を扱っていることを知り、事件の次の日から仕事の合間に取引所等を調べいる内に、ブロックチェーンやトークンに興味がわくようになりました。

白川:それもまた凄いですね(笑)。


大坂:ブロックチェーンを調べていく過程で、販促広告における課題感と重なる瞬間がありました。販促広告でデジタル施策を行う時に企業と交渉をしても購買情報は開示してもらえないのです。それならば、「自分でソリューションを開発してシステムを作れば上手くいくのではないか」と考えてブロックチェーンの企業に入り、そこで桂城漢大(現canow株式会社 代表取締役)と出会いました。

白川:なるほど。大坂さんの入口と今いる所は繋がっているのですが、経済的なイノベーションを起こすであろうと言われている所に上手くシフトしていったのですね。

大坂:そうですね。

白川:意外と人生の転機は身近な所に転がっているものなのですね。ただ、興味の持ち方と着眼点が重要ですね。

大坂:その時に事件が起こっていなければ、以前から興味があったクライアントワークとして外資系のコンサルタントの道に進んでいたと思いますね。

危機的状況で誕生したのがYELLtum

白川:canow株式会社が立ち上がったのが2020年4月。まだ1年なのですね。

大坂:事業を開始してから1年となります。正確に言いますと、私がトランスから転職した時に友達と起業した会社が今のcanowの母体となっています。「テクノロジーの力で販促広告の課題を解決したい」と思い、オートメーションを開発する会社を作ろうとしましたが、なかなか2社で業務をこなす時間がありませんでした。ちょうどその頃、桂城と独立をしてビジョンを突き詰めるために「社名をcanowに変えて一緒にやろう」という話になって、canowが誕生しました。

白川:そのような経緯があったのですね。

大坂:当時の日本ではかなり規制が強かったので、1年の半分は海外でトークンのデジタルマーケティングを行い、canow自体も海外のトークンのマーケティングを扱うことがメインでした。



ちょうど1年前に、トークンマーケティングを行う事業で資金調達の話をしていましたが、新型コロナウイルスが始まったことでその話が白紙となってしまいました。飲食業界に出資をしていた調達先の方が、コロナによって厳しい状況に陥ってしまったことが背景にあります。

それで「やばい」と思っていた時に、たまたま海外のsocios(ソシオズ)という面白そうなスポーツトークンを発行している会社を見つけ、Jリーグチームの方に話してみると反応が良かったので、「YELLtum(エールタム)」を開発することになりました。

白川:canowでは、元々は海外のトークンのマーケティングみたいなことをやっていたのですか?

大坂:そうですね。新規上場や上場後に重要となるマーケティングを各言語で行う予定でしたが、コロナによって状況が一変しました。

YELLtum公式WEBサイト:https://yelltum.fun/

YELLtumとは

白川: YELLtumのご説明をお願いします。

大坂:YELLtum自体は、クラブチームが地域通貨を発行するようなプロダクトとなっています。ではなぜ、チームが地域通貨を発行するのかと言いますと、今までは試合自体がファンや地域の方々とコミュニケーションする最大のコンテンツでしたが、コロナによってその機会がなくなってしまいました。

その時に、「試合がなければどうやって収益を上げて、コミュニケーションを取るのか」と、コロナ前に課題となっていたことが、むき出しになってしまいました。そこで我々としては、土日ではなく平日にチーム、地域そしてファンや居住者の方々と「コミュニケーションをとる接点はどこなのかな」と考える所からスタートしました。

YELLtumを開発した背景は、我々はブロックチェーンやトークンのマーケティングを行っていましたし、地域通貨をトークンとして地域に循環させることで、色々なサービスと連携してチームに手数料を還元し、コマース含めた様々なサービスと接続できると思ったからですね。

販促広告をやっていた時に1番重要な課題と感じていたのが、そもそもPOS情報を見れないことでした。そこで、実際にチームが発行した地域通貨が店舗で使用される時に消費者行動や購買情報を集積できるので、それ自体をチームがマーケティングに扱えるようにしました。

他には、チームの新しいマーケティングスタッフやスポンサー企業に対して提案したり、チームがどれだけ地域経済に貢献しているか等を自治体に伝えましたね。チームに対して還元されるものはデータ等になるので、そういったコアな部分としてYELLtumは存在すると考えています。

クラウドファンディングとギフティング

白川:他社さんでもJリーグクラブと組んでYELLtumと似たようなサービスを行っていますが、YELLtumにもクラウドファンディング的な要素がありますよね。

大坂:私がお世話になった動画を作る株式会社gumiの國光宏尚さんが、FiNANCiE(フィナンシェ)を展開しています。FiNANCiEとYELLtumには幾つか大きな違いがありまして、FiNANCiEの場合はクラウドファンディングがメインになっていることになります。

白川:なるほど。

大坂:今、スポーツ業界にクラウドファンディングとギフティング(投げ銭)があります。ギフティングに関しては例えば試合中等でユーザーとエンゲージメントが高い状態にしている状態で行うとうまくいくので、何かしらの着火剤がないとユーザーは動かないと思っています。クラウドファンディングでは期間が1ヶ月から2ヶ月あると思いますが、盛り上がるのは基本的には最初と最後になりますよね。ユーザーがリターン品に対してお金を払ってからクラウドファンディングが終了するまで、ユーザーが企画に接触することはあまりありません。



我々のYELLtumでは、平常時にずっと細かいクラウドファンディングが走っているような状態を目指しているので、この点が大きな違いだと思っています。


白川:確かに瞬間的な着火剤がなければならないとか、クラウドファンディングの流れとは別に、シーズンを通して長期的にお金を還元するような仕組みづくりをすると言う点では、スポーツだけではなく新しい商流を作れるのではないかと思いますね。



ただユーザー目線で経済的なベネフィットをどう享受できるかということを考えると、インフラの整備などが大事になりますよね。

さるぼぼコインが成功したワケ

大坂:我々もその部分に関しては色々調べていまして、アイディアとして1番着想を得られて、かつ成功したと考えているのが飛騨高山の「さるぼぼコイン」になります。2000年初頭に日本で地域通貨ブームが起こってから約800種類もの地域通貨が誕生しましたが、今ではほぼ無くなっています。



白川:なるほど。さるぼぼコインで具体的に何をしたのですか?



大坂:まず、飛騨信用組合さんがさるぼぼコインを始め、地域の居住者の方々に草の根的にコツコツと普及させていきました。スーパーや神社で使えるものに対して、我々は新しいテクノロジーを使ってデジタルの部分を強化させたのですよね。



各地域通貨の失敗例を調べてみますと、例えばポスターに「地域通貨を始めます」とあっても、使える場所が無記入でSNSをやっていないというケースが多かったですからね。それゆえ、単純にちゃんとやれば良いという話になりました。地域通貨の主体に自治体がなることが多いのですが、そもそもPRが自治体の主の業務ではありません。

地域にコミュニティーがあってよりキャッチーな存在のスポーツチームが通貨を発行することで、まずは認知の面でスムーズになると思っています。あとは現在、某大手企業さんのPOSシステムで技術的な連携を行って、通貨を使える場所をどんどん増やすようにしています。出口をより多くしてから通貨を使うことで、どのようなメリットがあるのかを、オンラインとオフラインで細かく丁寧に伝えていくと普及すると思っています。

知れ渡ってしまった本の実態

白川:なるほど。なかなか難しい時代になっていくのでしょうけど、それこそ新型コロナウイルスで気づいたことが一杯あるじゃないですか。そもそもポンコツ政府や国際化と言われてはや何十年。日本では何も進んでいない。島国がゆえにガラパコス化している。デジタルに関してもかなり遅れていますし。

日本人でも分かっている人は分かっていましたが、お茶の間の奥様までが日本の実態を知ってしまったのが、今回のコロナですからね。デジタル庁ができるとか言いながら、まだあまりワークしている感じでは無いですし、これだけスピード感がなく日本が世界から取り残されているという事実に愕然としていますが、海外とお仕事をされたりすると同じようなことを感じませんか?

大坂:例えばヴェトナムに行った時に、現地の人達から「日本人のディテールを認めるし凄く良い人だけど、仕事はしないよね」と言われました。どうしてかと言いますと、中国人と韓国人の方がすぐに決断して仕事をするスピードが速いからなのですよね。



「日本は仕事を持って帰るので、仕事をしない」という話を聞いて、「このままではいけない」と思っていましたが、コロナによって日本人のそのような面が知れ渡ってしまいましたからね。また、中国や東南アジアの方々が日本で働く時に、高い所得の仕事をあまり与えられていないので、彼らからすれば「日本ではなくて、アメリカで働くよね」みたいな現象が起こっています。



日本はアジアでNo.1的な感覚がまだあると思いますが、このような状況が続いて行くと、近い内にアジアの国々に抜かれていくでしょうね。国際的競争力がない状態で抜かれてしまうと、色々とマズイと思います。

白川:私は前職時代にヨーロッパとアメリカによく行きましたが、まあそもそも日本とカルチャーが違うし、欧米では役職に置かれた決裁権や責任が凄く明確なのですよね。日本よりも良くも悪くもボスの命令は絶対で、ボスはそれなりにきちっとしたディレクションを出せます。

でも、日本だと横並びの人達が多くて、「来週もう一度検討しましょうか」みたいなことが何年もずっと続いていくので、世界中の国々にあっという間に抜かれていきますよね。そもそも、根本的な問題は教育にあると思っています。

大坂:そうですよね。

YELLtumへの期待感

白川:日本のGDPは世界で3位かもしれないけど、1人あたりで言えば、日本は香港やシンガポールに軽く抜かれているわけです。言い出すとキリがないですが、日本は何か1歩を踏み出すのが凄く遅いですからね。でもデジタルが加速していくこられからの社会においては、このYELLtumを1つの例にすると、日本で導入していくまでのプロセスが物凄くストレスだと思います。



地域スポーツに携わる人達はYELLtumを新たな収入源として面白そうだなと思うでしょうが、肝心の決済をする人やインフラを整備する人がいるようでいなかったりしますからね。行政を含めた色々な人達を巻き込んでいくというフローを、加速的にスピードアップできないのかなと思います。

大坂:白川さんが仰る通り、シンプルに事例があると分かりやすいと思います。YELLtumを今年の7月から提供開始するのですが、「こういう連携や提供をしています」というものを世に出せれば、分かりやすくなるはずです。

我々は当初、ブロックチェーンやトークンがどうのこうのと言っていましたが、そういうことではなくて、本質的に何の課題を解決して、お渡しする資料を分かりやすくなるように日々アップデートしていけば伝わると思っています。

白川:YELLtumは単なる新しい通貨ではなくて、消費者の購買実態をきちんと把握してから大きな動きがあれば、手数料等で経済的なベネフィットがあると思います。そのためにも消費者の購買行動をきちんと把握できる点が、YELLtumの1番のセールスポイントなのですよね?

大坂:そうですね。YELLtumを実際に開発する上で、そこがコアな部分になります。YELLtumが使われる回数が増えるとその点が強化されるので、今はまずは使ってもらうためにチームに導入のお話をしています。



例えば、貯まったデータを分析して年間のスポンサー料が1,000万円増えたという時に、YELLtumが本当の力を発揮できるのではないかと思っています。ですので、提供開始を地域通貨のような形で行いますが、ある程度早い段階でデータとコマース機能を扱うことで、スポンサーさんに早めに商品開発やデータマーケティングを提案していこうと思います。

白川:今、どのような取り組み事例がありますか?

大坂:九州地域の自治体とJ2リーグのチーム、そして大手企業2社とで、オープンイノベーションの一環として地域通貨を活用していく話を進めています。

他に、協議中のチームと自治体もあります。現状は我々とチームが行うのですが、チームが自治体の地域通貨をプロデュースするという話もしています。

我々は、YELLtumが自治体とチームの方針や保有データによって変わるものだと思っています。地域通貨を発行するサービスとしてはシンプルなのですが、どちらかと言うと新しいブランドが生まれてくるので、ブランド自体をきちんとマーケティングとマネージメントしていきたいですよね。かなり大変な作業になりますが、ある意味編集力が必要だと思っています。

スポーツを文化にしたい

白川:今後、ビッグクラブも視野に入れていくのでしょうか?



大坂:そうですね。いずれはイングランド プレミアリーグのような事例を日本でも実現できると思っています。YELLtumを、リーグではなくチームや地域がきちんと管理をすることで独自性を作っていけると思います。そこまでできると、YELLtumを含めたデータを活用してどうのこうのと、話がコアになってくるでしょうね。



白川:地域という形で見た時に、野球やサッカーなどのチームと地域が連携して、スポーツで活性化させていく取り組みの発展系もほしいですよね?

大坂:そうですね。他競技と連携して「地域性でやりましょう」という話が出てきていますが、具体的に進んでいません。要は、仕方ない部分もありますが調整が足りてないのですよね。



白川:日本特有の調整ですね(笑)。気付いたら数ヶ月経っているという。



大坂:そうですね(笑)。



白川:確かに想像するだけでも調整は必要でしょうし、ゆえに大変なのだと思いますね。



大坂:以前、AXISというデザイン誌の地域特集に我々がやりたいようなことが掲載されていました。自治体と地域のデザイナーさんが組んで、シャッター通りをクリエイティブな通りに変えていたのですよね。



白川:素晴しい取り組みです。



大坂:スポーツチームは地域と物凄く密着していて、そこには目に見えない資産が沢山あります。例えば、パッケージがもう少し良ければ売れるという商品が一杯あるので、地域とデザイナーさんと一緒に新しいリブランディングをして、チームから販売を仕掛けていきます。そこで購入できる通貨自体が、チームが発行する通貨や地域が発行している通貨と連携できるということが理想ですね。



白川:今、幾つかのケーススタディが形になる中で、大坂さんが描く理想からすると、入口の段階にいるのでしょうか?



大坂:そうですね。若干、開発中ですから(笑)。



白川:クリエィティブな視点を持つ大坂さんやデジタルナレッジがある方、技術がある方からスポーツというフィールドを観た時に、今後どういうことが起こり、変わっていくと思われますか?



大坂:日本では「サッカー」と呼ばれていますが、これを「フットボール」と呼ばれるように変えていきたいですね。要はサッカー以外のスポーツも文化にできると、凄く良いことになると思います。サッカーという競技では、味方からパスを受ける時に敵が迫って来るので、瞬時に判断をしてパスをするという思考があります。これをサッカー以外にでも応用できると思っています。

サッカーは興行としても成り立っていて色々な方が観戦に来るので、観戦者の方々に地域の課題に対する問いを出して一緒に解決していく。このようなことを、日本がアジアの国々に対して1番力を発揮できると思っています。



例えば、東南アジアは人口が多くて勢いがありますが、足りないことが一杯あるので、日本があらゆる課題に対して良いアドバイスをできれば、アジアで新しい立ち位置に入れるはずです。



日本人は丁寧で課題解決能力を持っていると思うので、それを面として向けていくことができるようになると面白いと思います。



白川:なるほど。日本は欧米と比較して、スポーツ文化が何十年も遅れていますからね。Jリーグが始まるまでにテレビで観ることができたスポーツは、野球と相撲でしたが、今では若い人達からすると相撲はスポーツなのですか?という空気を感じます。



スポーツには沢山の競技があって、スポーツをする・見る・支える等の楽しみが色々あって良いと思います。日本に資源がある訳ではなく、デジタル的な後進国で技術革新がなかなか生まれにくいので、スポーツをもっと活性化させていきたいですね。欧米に近づこうとするのではなく、まだまだアジアに貢献できるので、日本発のYELLtumの成功事例が広がりを見せることで凄いことが起きるのではないかと想像してしまいます。



大坂:今すぐには難しいですが、東南アジア、ヨーロッパのチームとは話をしています。

白川:我々も緊急事態宣言が明けましたら積極的にYELLtumを上手く普及させられるような形でお手伝いできればと思っています。大坂:ありがとうございます。宜しくお願いします。 (了)